歯を失う原因はむし歯と歯周病。効く手が違う理由

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歯を1本失ったとき、原因を正確に言える人は多くありません。虫歯だったのか、歯ぐきが悪かったのか、あるいは事故なのか。実は、この区別は失ってからではなく失う前にこそ意味があります。むし歯と歯周病では、効く手がまったく違うからです。この記事では、厚生労働省 e-ヘルスネットに書かれている記述をもとに、歯を失う2大原因、それぞれに有効とされる予防法、セルフケアで届かない範囲、そして年代ごとに出やすいサインを整理します。

この記事の要点

  • 歯の喪失の2大原因はむし歯と歯周病。国の解説がこの2つに絞って書いています
  • むし歯に最も効果的とされるのはフッ化物を用いる方法。歯みがきの「強さ」ではありません
  • 歯周病に有効とされるのは口腔清掃で、セルフケアでは歯間部の清掃が重要とされています
  • セルフケアでは取り除けない歯垢や歯石があることが、国の解説の前提に置かれています
  • 25〜64歳に多い自覚症状は「歯が痛い、しみる」「歯ぐきが痛い、はれている、出血がある」
  • 早い段階なら、う蝕は削らずに再石灰化を期待し、歯肉炎や軽度の歯周炎はブラッシング指導と歯石除去だけでも改善が認められる

歯を失う原因は、突き詰めると2つ

厚生労働省 e-ヘルスネットの「『8020』達成のために必要な予防対策」は、次のように書いています。

「『8020』を達成するためには『歯の喪失をいかにして防ぐか』がポイントとなります。歯の喪失の2大原因はむし歯と歯周病です。つまりむし歯予防と歯周病予防を充実させることが、歯の喪失の防止と活動能力(ADL)や生活の質(QOL)の維持につながります。」

原因を無数に挙げるのではなく、2つに絞って書かれているのがこの解説の特徴です。歯ぎしりも、噛み合わせも、加齢も、それ自体が直接の喪失原因として並べられてはいません。

そして同じページは、8020運動が高齢者向けの取り組みと受け取られやすいことに触れたうえで「小児期からの対策を充実させることも立派な『8020運動』なのです」としています。80歳の話ではなく、いま何をするかの話だという整理です。

ちなみに「20」という数字の根拠も示されています。e-ヘルスネットの「8020運動とは」は、「20」を「自分の歯で食べられる」ために必要な歯の数とし、「だいたい20本以上の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛めることが科学的に明らかになっています」と述べています。8020運動は平成元年(1989年)に厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱して始まりました。

むし歯と歯周病では、効く手が違う

2大原因という言い方は、対策も2種類あるという意味です。e-ヘルスネットは、それぞれに有効な予防法を分けて挙げています。

原因 有効とされる予防法(e-ヘルスネットの記述)
むし歯 「最も効果的な方法は、フッ化物を用いる方法です。現在、国内で実施されている方法では、フッ化物洗口・フッ化物歯面塗布・フッ化物配合歯磨剤があります。」/砂糖の適正摂取(代用糖の利用)/シーラント
歯周病 口腔清掃。セルフケアでは「歯ブラシによる適切な清掃に加えて、デンタルフロスや歯間ブラシによる歯間部清掃が重要」/プロフェッショナルケアでは「セルフケアでは取り除けない歯垢や歯石を専門家が除去する」/喫煙はリスクファクターとされ、禁煙教育も予防対策として必要

並べてみると、重なっている部分が意外に少ないことが分かります。むし歯側の主役はフッ化物、歯周病側の主役は歯間部の清掃です。毎日ていねいに磨いていても、フッ化物配合の歯みがき剤を使っていなければむし歯側の手は打てていませんし、歯ブラシだけで済ませていれば歯周病側の手が届いていません。

むし歯の成り立ちそのものは虫歯はなぜできる?成り立ちと予防の3本柱に、歯間部の清掃についてはデンタルフロスの正しい使い方歯間ブラシの使い方と選び方にまとめています。

セルフケアで届かない範囲が、はっきり書かれている

注目したいのは、歯周病対策の書き方です。e-ヘルスネットは口腔清掃を「自分自身で行うセルフケアと専門家によるプロフェッショナルケアの二通り」に分け、後者をこう説明しています。

「セルフケアでは取り除けない歯垢や歯石を専門家が除去する方法です。」

「取り除けない」と断定されている点が重要です。道具や磨き方を工夫すれば全部取れる、という前提には立っていません。歯石になってしまったものは、家庭のケアの対象外という整理です。

歯垢と歯石の関係は「歯の治療の流れ」でも説明されています。「プラークの中の細菌などは、唾液に含まれるカルシウムやリン酸と結合して歯石となり、歯の表面に付着します。」つまり歯石は、取り残した歯垢が変質したものです。歯垢と歯石の違いを押さえておくと、どこまでが自分の担当かが見えてきます。

早い段階なら、削らずに済む選択肢が残っている

e-ヘルスネットの「歯の治療の流れ」は、う蝕と歯周病それぞれについて、進行の段階で治療が変わることを書いています。

段階 治療(原文の記述)
う蝕が歯の表面に限局している 「削らずに再石灰化を期待します」
う蝕が進行した 「削って詰めたり、かぶせ物をする治療を行います」
う蝕が歯髄まで達して歯髄炎 歯髄を除去する治療(抜髄)。「歯自体は残して神経だけを治療する」
歯肉炎・軽度の歯周炎 「ブラッシング指導を行い、歯石除去を行うだけでも改善が認められます」
歯槽骨が溶けて動揺 歯肉や歯槽骨に対する外科手術、歯を固定する処置

上2行と下1行の差が、そのまま「早く気づくことの価値」です。とくに歯肉炎・軽度の歯周炎の行は、特別な治療ではなくブラッシング指導と歯石除去だけで改善が認められると書かれています。毎日のやり方を変えることが、そのまま治療の一部になる段階があるということです。

年代によって、出てくるサインが違う

では、何を手がかりに気づけばよいのか。e-ヘルスネットの「各種統計からみる歯科疾患の重み」は、平成28(2016)年歯科疾患実態調査の結果として、歯や口の自覚症状を有する割合が全体の約4割だったと紹介し、年齢階級別の傾向をこう書いています。

「青壮年~中年期(25~64歳)には『歯が痛い、しみる』・『歯ぐきが痛い、はれている、出血がある』が多いこと、高年齢ほど『かめないものがある』・『口がかわく』が多いことなどがわかります。」

年代 多い自覚症状 関連する記事
25〜64歳 歯が痛い、しみる 知覚過敏と虫歯の見分け方
25〜64歳 歯ぐきが痛い、はれている、出血がある 歯みがきで血が出るのはなぜか
高年齢 かめないものがある オーラルフレイルのセルフチェック
高年齢 口がかわく ドライマウスの原因と対策

働く世代で出てくる2つは、どちらも「痛い」ではなく「しみる」「出血」から始まるのが特徴です。放っておいても痛みが強くならないことがあるため、受診が後回しになりやすいサインでもあります。

なお同じページは、歯科疾患が身近な病気であることを他の数字でも示しています。平成29(2017)年度の国民医療費統計で歯科診療医療費は2兆9003億円、国民医療費全体(約43.07兆円)の6.7%を占め、悪性新生物(3.82兆円)に次いで2番目でした。平成28(2016)年国民生活基礎調査の通院者率でも、歯の病気は男女ともに上位5傷病の3位に入っています。

口の中だけの問題ではない

e-ヘルスネットの「口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連」は、歯周病と全身疾患の関係を扱っています。とくに糖尿病との関連については、次のように書かれています。

「多くの疫学調査は、糖尿病患者の歯周病が進行していることを示しており、また歯周病のある糖尿病患者に歯周治療を行うことで、血糖コントロールの指標となるHbA1cに改善が見られることから、歯周病と糖尿病との間には双方向的な関連があるといわれています。」

同ページは、歯周病が心疾患・慢性腎臓病・呼吸器疾患・骨粗鬆症・関節リウマチ・悪性新生物・早産や低体重児出産などとも関連が報告されているとしたうえで、「それらのなかにはエビデンスが十分ではないものもあります」と留保も添えています。断定できるものとそうでないものを分けて書いている点は、読むときに押さえておきたいところです。

もうひとつ、この解説には「コモンリスクファクター」という考え方が出てきます。う蝕や歯周病は口腔清掃習慣の影響を強く受けるが、食生活や喫煙など生活習慣病と関連の深い生活習慣の影響も受けており、多くのリスクファクターを共有している、という整理です。口のケアと体のケアが、同じ生活習慣の上に乗っているという見方です。

順番をつけるなら、この3つから

ここまでの記述を、今日から動かせる形に並べ替えると次のようになります。

1
使っている歯みがき剤にフッ化物が入っているか確かめる

e-ヘルスネットがむし歯予防で「最も効果的」としているのがフッ化物を用いる方法で、国内で実施されている方法のひとつとしてフッ化物配合歯磨剤が挙げられています。毎日使うものなので、確認の手間に対して効きが大きい項目です。

2
歯ブラシに歯間部の清掃を足す

歯周病対策のセルフケアとして「歯ブラシによる適切な清掃に加えて、デンタルフロスや歯間ブラシによる歯間部清掃が重要」と書かれています。歯ブラシの当て方を磨き込むより、届いていない場所を増やすほうが構造的です。

3
取り切れないぶんを預ける予定を入れる

プロフェッショナルケアは「セルフケアでは取り除けない歯垢や歯石を専門家が除去する方法」と定義されています。自分の担当外の範囲がある以上、予定として確保しておかないと永久に残ります。予防歯科でのセルフケアと定期検診の役割分担もあわせてご覧ください。

3つとも、道具を買い替えたり磨く時間を延ばしたりする話ではありません。効く相手が違う手を、それぞれ1つずつ持っているかという確認です。

まとめ

要点

歯の喪失の2大原因はむし歯と歯周病で、e-ヘルスネットはそれぞれに別の予防法を挙げています。むし歯に最も効果的とされるのはフッ化物を用いる方法、歯周病のセルフケアで重要とされるのは歯間部の清掃。そして「セルフケアでは取り除けない歯垢や歯石」があることが前提に置かれています。う蝕が表面に限局している段階なら削らずに再石灰化を期待でき、歯肉炎や軽度の歯周炎ならブラッシング指導と歯石除去だけでも改善が認められる、とも書かれています。25〜64歳に多いサインは「しみる」と「歯ぐきの出血・はれ」。痛みが出る前の症状なので、気づいたときが動きどきです。

よくある質問

歯を失う原因で一番多いのは何ですか。

厚生労働省 e-ヘルスネットの「『8020』達成のために必要な予防対策」は「『8020』を達成するためには『歯の喪失をいかにして防ぐか』がポイントとなります。歯の喪失の2大原因はむし歯と歯周病です。」と述べています。つまり原因は大きく2つで、この2つの予防を充実させることが歯の喪失の防止につながる、という整理です。同じページは、小児期からの対策を充実させることも立派な8020運動である、としています。

むし歯と歯周病で、やるべきことは違うのですか。

違います。e-ヘルスネットは、むし歯予防で「最も効果的な方法は、フッ化物を用いる方法です。現在、国内で実施されている方法では、フッ化物洗口・フッ化物歯面塗布・フッ化物配合歯磨剤があります。」とし、砂糖の適正摂取とシーラントも有効な予防法として挙げています。一方の歯周病対策では口腔清掃が有効とされ、セルフケアでは「歯ブラシによる適切な清掃に加えて、デンタルフロスや歯間ブラシによる歯間部清掃が重要です」と書かれています。同じ「歯みがき」でも、効く相手が違います。

歯みがきだけでは足りないのですか。

足りない範囲があります。e-ヘルスネットは歯周病対策の口腔清掃を、自分で行うセルフケアと専門家によるプロフェッショナルケアの二通りに分けたうえで、後者を「セルフケアでは取り除けない歯垢や歯石を専門家が除去する方法です」と説明しています。セルフケアで取り切れないものがあることが前提に置かれています。また同ページは、喫煙が歯周病のリスクファクターとして認められており、禁煙教育も歯周病の予防対策として必要とされている、とも述べています。

気づいたときには手遅れ、ということはありますか。

段階によります。e-ヘルスネットの「歯の治療の流れ」は、う蝕について「う蝕が歯の表面に限局している場合は、削らずに再石灰化を期待しますが、進行すると削って詰めたり、かぶせ物をする治療を行います。」としています。歯周病についても「歯肉炎や軽度の歯周炎の場合は、ブラッシング指導を行い、歯石除去を行うだけでも改善が認められます。」と書かれています。早い段階ほど、削らない・外科処置をしない選択肢が残っています。

口の中の不調は、どのくらいの人が感じているのですか。

e-ヘルスネットの「各種統計からみる歯科疾患の重み」によれば、平成28(2016)年歯科疾患実態調査で歯や口の自覚症状を有する割合は全体の約4割でした。年齢階級別に見ると、青壮年から中年期(25〜64歳)には「歯が痛い、しみる」「歯ぐきが痛い、はれている、出血がある」が多く、高年齢ほど「かめないものがある」「口がかわく」が多いとされています。年代によって、出てくるサインが違います。

なぜ「20本」なのですか。

e-ヘルスネットの「8020運動とは」は、「20」を「自分の歯で食べられる」ために必要な歯の数と説明し、これまでの調査から「だいたい20本以上の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛める」ことが科学的に明らかになっている、としています。8020運動は平成元年(1989年)に厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱して始まったもので、「一生自分の歯で食べよう」という標語を数値目標化したものと説明されています。

出典

※ 本記事は上記の公表資料に書かれている内容を整理したものです。症状の原因や治療方針の判断は歯科医院で受けてください。

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