この記事の要点
- 口臭の原因は87%が口の中にあり、においの素は揮発性硫黄化合物(VSC)。硫化水素とメチルメルカプタンで約90%を占める
- VSCは舌の上で最も多く作られる。原因のほとんどは歯周病と舌苔で、両者では舌苔からの産生量の方が多いとされている
- 2,672名(18〜64歳)の測定調査では、口臭と関連するのは舌苔と歯周病の存在で、歯垢・う蝕・歯磨き習慣・喫煙の影響はほとんどないと報告されている
- つまり歯ブラシを替えることが口臭に効くという記述は、公的な資料の中には見当たらない。最も効果的と書かれているのは舌の清掃
- 舌清掃は起床時の1回。それ以上行うと粘膜を傷つけるおそれがあるとされ、舌に傷や潰瘍があるときは中止
- 自分では分からない。「口臭の自己評価と実際の口臭の有無とは相関しない」。嗅覚順応のため、強い口臭を持つ人が無自覚になる
- 家族から指摘されたら歯周病を疑う。歯周病はほとんど痛みもなく進行するため、痛みがないことは安心の根拠にならない
- みらくるの本体は電動歯ブラシと電動舌ブラシの2系統。口臭を目的にするなら、舌側の道具と手順を見るのが資料の示す順番
電動歯ブラシに替えたのに、口臭が変わらない。歯磨きの時間を長くしても、朝のにおいが消えない。そう感じている人は少なくありません。そしてそれは、磨き方が足りないからではない可能性があります。
厚生労働省 e-ヘルスネットの口臭の項目を読むと、においの素が作られる場所と、歯ブラシが届く場所がずれていることがはっきり書かれています。しかも、歯磨きの習慣と口臭の関連を否定した調査結果まで引かれています。この記事では、その記述を数字のまま並べて、何に手を打てばいいのかを整理します。
口臭の原因は、87%が口の中にある
まず場所の話です。e-ヘルスネットの「口臭の治療・予防」は、次のように書いています。
「口臭の原因は、87%が口の中にあることが明らかにされています」(e-ヘルスネット「口臭の治療・予防」)
別の項目「口臭の原因・実態」でも、「口臭の大部分(80%以上)は口腔内の気体由来であり」と書かれています。胃が悪いから、内臓が原因だから——という説明をよく聞きますが、資料の側はまず口の中を見るという順番を示しています。
そもそも口臭という言葉自体にも定義が置かれています。「口臭とは『口あるいは鼻を通して出てくる気体のうち、社会的容認限度を超える悪臭』と定義されます」。ニンニク臭・ネギ臭・飲酒後のアルコール臭のような、正常な生活活動で生じる臭気は口臭に含めないとされています。
においの正体は3つの化合物。2つで約90%
次に物質の話です。原因物質の名前と比率まで書かれています。
| 項目 | 資料の記述 |
|---|---|
| 原因物質の総称 | 揮発性硫黄化合物(VSC:Volatile Sulfur Compounds) |
| 内訳 | 硫化水素・メチルメルカプタン・ジメチルサルファイドの3つ |
| 比率 | 硫化水素とメチルメルカプタンで約90% |
| 作られ方 | 口の中の嫌気性菌が、唾液・血液・剥離上皮細胞・食物残渣の中の含硫アミノ酸を分解・腐敗させる |
| 産生部位 | 辺縁性歯周炎・口内炎・壊死性軟組織疾患・口腔癌などの疾患病巣、あるいは舌苔や貯留唾液 |
ここで押さえておきたいのは、原因が「汚れ」ではなく「細菌の分解活動」だということです。歯の表面をきれいにすることと、嫌気性菌がタンパク質を分解する場所を減らすことは、同じではありません。歯垢と歯石の違いは 歯垢と歯石の違いとは?歯石になる前に落とすセルフケアのコツ に分けています。
VSCは舌の上で最も多く作られる
場所の内訳が、この記事のいちばんの要点です。
「歯周病・舌苔が原因のほとんどを占め、この両者では舌苔からの産生量の方が多いといわれています」(e-ヘルスネット「口臭の原因・実態」)
「VSCは舌の上で最も多く作られます。これは舌に白い苔状のものが付着するためです」(同「口臭の治療・予防」)
舌苔(ぜったい)は、舌の表面につく白い苔状のものです。e-ヘルスネットは、生理的口臭の予防について「歯磨きに加えて舌清掃を行って舌苔を除去し、舌を清潔に保つことが最も効果的です」としています。「歯磨きに加えて」という書き方になっている点に注意してください。歯磨きの代わりではなく、歯磨きでは届かない部分の話です。
歯周病の側には別の特徴があります。「通常は硫化水素の割合が多いのですが、歯周病患者はしばしばメチルメルカプタンの割合が高くなります」。においの質が変わるということです。歯周病の進み方のセルフチェックは 歯周病のセルフチェック7項目。当てはまったら次に何をするか、歯科医院で何を測るのかは 歯周病の検査では何を測るのか。歯周ポケット・エックス線・プラーク付着率の3つ にまとめています。
2,672名の調査は「歯磨き習慣の影響はほとんどない」と書いている
ここが、電動歯ブラシを使っている人にとって重要な部分です。e-ヘルスネットは、1992年に18歳〜64歳の2,672名について口腔疾患・口腔環境・生活習慣の調査とVSCの機器測定を行った結果を6点にまとめています。そのうちの1点が次の記述です。
「口臭と関連するのは舌苔と歯周病の存在であり、その強さは舌苔の方が歯周病より大きい。一方で、歯垢・う蝕・歯磨き習慣・喫煙の影響はほとんどない。」(e-ヘルスネット「口臭の原因・実態」が引く調査結果)
歯垢・う蝕・歯磨き習慣・喫煙の影響はほとんどない。歯磨きの習慣が名指しで並んでいます。これは「歯を磨かなくてよい」という意味ではありません。虫歯と歯周病の予防には歯磨きが要ります。そうではなく、口臭という1つの指標に対しては、歯磨きの側を強化しても動きにくいという読み方です。
同じ調査からは、ほかに次の点も挙げられています。
同じ調査で報告されたこと
- 口臭には日内変動があり、食事やうがいなど口腔活動から時間が経過するほどVSC濃度が高い
- 平均VSC濃度に有意な男女差は認められない
- 年齢が高いほどVSC濃度は高い傾向にあるが、他の要因の影響を排除すると年齢は有意でなくなる
- 口臭の自己評価と実際の口臭の有無とは相関しない
- 社会的容認限度を超える強さの口臭を持つ成人は、測定時間帯により6%〜23%存在する
「測定時間帯により6%〜23%」という幅は、日内変動の裏返しです。朝に測れば多く、食後しばらくなら少ない。同じ人の口臭が、時間で変わるということでもあります。朝の対処は 朝の口臭対策は舌ケアから。5分でできる電動舌ブラシの手順 にまとめています。
では、電動歯ブラシは何に効いているのか
整理すると、こうなります。
| 手を打つ場所 | 口臭への位置づけ(資料の記述から) | 使う道具 |
|---|---|---|
| 舌(舌苔) | VSCが最も多く作られる場所。生理的口臭の予防に最も効果的と書かれている | 舌ブラシ(専用のものがより効果的とされる) |
| 歯周ポケット(歯周病) | 病的口臭の代表的な原因。原因の多くがVSCを作る嫌気性菌 | 歯科医院での検査・治療。日常は歯ブラシ+歯間の清掃 |
| 歯の表面(歯垢) | 調査では影響はほとんどないと報告されている | 歯ブラシ(電動・手磨きとも) |
| 唾液(貯留唾液・乾燥) | VSCの産生部位として挙げられている。咀嚼・嚥下や唾液の分泌量と関係すると考えられている | よくかんで食べる・規則正しい食事 |
電動歯ブラシは3行目に当たります。虫歯と歯周病の予防としては主役ですが、口臭という指標では主役ではないというのが、資料から出てくる整理です。そして2行目の歯周病は、歯ブラシだけでは完結しません。歯間の清掃については デンタルフロスの正しい使い方。電動歯ブラシと併用したい理由と選び方 と 歯間ブラシの使い方と選び方。サイズの決め方とフロスとの使い分け に分けています。
電動歯ブラシで舌を磨いてしまう人もいますが、歯と舌では当てる圧が違います。この点は 電動歯ブラシで舌を磨いていい?舌は100グラム以下、歯は200〜500グラム にまとめています。舌ブラシそのものの効き方は 電動舌ブラシは口臭に効く?舌苔と口臭の仕組みを歯科目線で解説 にあります。
舌清掃の手順は、資料に4ステップで書かれている
e-ヘルスネットは、舌清掃の方法を具体的な手順として示しています。「毛先の柔らかい小児用の歯ブラシや目の粗いタオルなどを使ってもかまいませんが、専用の舌ブラシを使うとより効果的です」とした上で、次の順番です。
鏡を見ながら舌を思いきり前に突き出して、舌の後方に舌苔がついていないか確認します。ついている場所を見てから始めるのが最初の手順です。
舌ブラシを鏡で見える最も奥に軽くあて、手前に引きます。決して力を入れ過ぎないようにと明記されています。このときに息を数秒間止めながら行うと、嘔吐反射が出にくくなりますとされています。
舌ブラシの先を水道の水でよく洗い、先に汚れ(舌苔)がついてこなくなるまで1と2を繰り返します。回数ではなく、汚れがつかなくなったことが終わりの合図です。
「一日の舌清掃の回数は、起床時の一回で結構です。それ以上行うと舌の粘膜を傷つけるおそれがあります」。あわせて「舌に傷や潰瘍があるときは、舌清掃を中止してください」とされています。
朝に行う理由も書かれています。舌苔は起床時や絶食時などにその量が多くなる傾向があり、口臭の一日の変動リズムも食事のリズムとよく対応しているためです。そのうえで「舌清掃は朝起きてすぐに行い、食事は毎日規則正しくとり、よくかんで食べるようにしてください」と結ばれています。
舌ケアの頻度と続け方は 電動舌ブラシの正しい使い方と頻度。舌苔をやさしく落とすコツ、続かないときの工夫は 舌ケアが続かない理由と、習慣にする5つのコツ に分けています。
家族から指摘されたら、歯周病の検査を受ける
病的口臭の側には、受診の目安が明記されています。
「何の自覚もないのに家族から口臭を指摘されるようになったら、一度歯科医院を受診して歯周病の検査を受け、専門的な治療を受けることで改善します」(e-ヘルスネット「口臭の治療・予防」)
同じ項目には「歯周病はほとんど痛みもなく進行していきます」とも書かれています。痛くないことは、進んでいないことの証拠にはなりません。歯周病のほかには大きなむし歯や粘膜の潰瘍が原因になることがあるとされています。
病院の統計も1つ引かれています。口臭検査・診断・治療を求めて来院した約1,000名のうち、約3分の1が口腔内の清掃状態不良に伴う口臭(生理的口臭)、3分の1が歯周病に由来する口臭、1%強が呼気由来で、残る3分の1は治療の必要な口臭は認められなかったという内容です。気にして受診した人の3人に1人は、治療の必要がなかったという数字でもあります。
歯を失う原因そのものの話は 歯を失う原因はむし歯と歯周病。効く手が違う理由 に分けています。
自分では分からない、という前提から始める
最後に、この問題のやりにくさについて書かれている部分です。
「口臭のように鼻周囲で常時発生するにおいは嗅覚疲労(順応)という生体反応のため、自己評価しにくくなっています。そのため人々に不安を与える一方で、強い口臭を持つ人を無自覚にさせています。」
歯科疾患実態調査(2016年)では15歳以上の約10%が「口臭が気になる」と回答していますが、e-ヘルスネットは「このデータは主観的な回答であるため、国民の10%に口臭があることを示すものではありません」と注記しています。気になっている人と、実際に強い人は、重なっていないということです。
だからこそ、打ち手は自覚ではなく仕組みの側に置くことになります。VSCが最も多く作られるのは舌。だから朝1回、舌を清掃する。家族から指摘されたら歯周病の検査を受ける。この2つが、資料が示している順番です。
口の乾きが気になる場合は 口が乾く「ドライマウス」の原因と対策。唾液を増やす5つの習慣、洗口液の位置づけは マウスウォッシュ(洗口液)の正しい使い方。液体歯磨きとの違いと効果的なタイミング にまとめています。
よくある質問
電動歯ブラシに替えれば口臭は消えますか。
歯ブラシの種類を替えることが口臭に効くという記述は、本記事が参照した資料の中にはありません。e-ヘルスネットが引く2,672名の調査では、口臭と関連するのは舌苔と歯周病の存在であり、歯垢・う蝕・歯磨き習慣・喫煙の影響はほとんどないと報告されています。口臭を下げる目的なら、最も効果的と書かれているのは舌の清掃です。電動歯ブラシは歯の表面の磨き残しを減らす道具で、口臭の主な産生場所である舌には届きません。
においの素は何ですか。
揮発性硫黄化合物(VSC:Volatile Sulfur Compounds)です。e-ヘルスネットは、硫化水素・メチルメルカプタン・ジメチルサルファイドの3つを挙げ、そのうち硫化水素とメチルメルカプタンで約90%を占めるとしています。口の中にいる嫌気性菌が、唾液・血液・剥離上皮細胞・食物残渣の中の含硫アミノ酸を分解・腐敗させることで作られます。
舌と歯周病では、どちらの影響が大きいのですか。
e-ヘルスネットは「歯周病・舌苔が原因のほとんどを占め、この両者では舌苔からの産生量の方が多いといわれています」と書いています。ただし歯周病の側には別の特徴があり、「歯周病患者はしばしばメチルメルカプタンの割合が高くなります」とされています。舌の清掃をしても変わらない場合は、歯周病の側を見る必要があります。
舌の清掃は1日何回すればいいですか。
起床時の1回です。e-ヘルスネットは「一日の舌清掃の回数は、起床時の一回で結構です。それ以上行うと舌の粘膜を傷つけるおそれがあります」としています。また「舌に傷や潰瘍があるときは、舌清掃を中止してください」とも書かれています。朝に行う理由は、起床時や絶食時に舌苔の量が多くなる傾向があり、口臭の一日の変動リズムが食事のリズムと対応しているためです。
自分の口臭は自分で分かりますか。
分かりにくいとされています。e-ヘルスネットは「口臭の自己評価と実際の口臭の有無とは相関しない」という調査結果を挙げ、理由として嗅覚疲労(順応)という生体反応を説明しています。鼻の周囲で常時発生するにおいは自己評価しにくくなるため、「人々に不安を与える一方で、強い口臭を持つ人を無自覚にさせています」と書かれています。
家族から口臭を指摘されました。何をすればいいですか。
e-ヘルスネットは「何の自覚もないのに家族から口臭を指摘されるようになったら、歯周病が原因の可能性がありますので歯科医院での専門的な検査・治療が必要です」としています。歯周病は「ほとんど痛みもなく進行していきます」と書かれており、痛みがないことは安心の根拠になりません。一度歯科医院で歯周病の検査を受けることが、資料が示している順番です。
口臭が強い人はどのくらいいるのですか。
e-ヘルスネットは2つの数字を挙げています。1つは歯科疾患実態調査(2016年)で「15歳以上の約10%が『口臭が気になる』と回答」。ただしこれは主観的な回答なので、10%に口臭があることを示すものではないと注記されています。もう1つは機器による測定で、「社会的容認限度を超える強さの口臭を持つ成人は測定時間帯により6%〜23%存在する」という報告です。
口の中以外が原因のこともありますか。
あります。ただし限定的とされています。e-ヘルスネットは、口臭の大部分(80%以上)が口腔内の気体由来であるとし、全身疾患由来の口臭として糖尿病・尿毒症・肝硬変・肝癌・トリメチルアミン尿症を挙げています。そのうえで「これらは口臭以外にも何らかの自覚症状が現れることがほとんどですから、あまり考えなくてもよいでしょう」と書いています。口の中以外では副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)も挙げられています。
出典
- 厚生労働省 e-ヘルスネット(健康日本21アクション支援システム)「口臭の原因・実態」(最終更新日:2019年12月18日)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット(健康日本21アクション支援システム)「口臭の治療・予防」(最終更新日:2019年12月18日)
本記事は上記の公開資料の記述を整理したものです。引用はいずれも当該ページの本文からの引用で、数値・比率の解釈を記事側で足してはいません。2,672名の調査(1992年)および病院統計は、e-ヘルスネットが引いている報告であり、本記事は原論文を直接確認していません。個別の口臭の原因の判断や診断は本記事では行えません。気になる症状がある場合、とくに家族から指摘を受けた場合は、歯科医院での検査を受けてください。
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