子どもが自分から「これ使いたい」と言い出したとき、あるいは仕上げ磨きを少しでも楽にしたいと思ったとき、必ず引っかかるのが「電動歯ブラシって何歳から?」という疑問です。先に答えを書くと、年齢の下限を定めた公的な基準はありません。日本小児歯科学会も「使用してもかまいません」という立場で、そのうえで3つの条件を付けています。この記事では、その条件と、年齢の代わりに何を目安にすればよいのかを、学会と公的機関の資料をもとに整理します。
- 電動歯ブラシに「何歳から」の公的な年齢基準はない。日本小児歯科学会は条件付きで使用可としている
- 学会が挙げる注意は3つ。歯肉を傷つける・下げる/歯並びによって毛先が届かない/子ども自身では扱いきれないことがある
- 目安は年齢より歯の生えかわり。6歳前後から12歳ごろまでは乳歯と永久歯が混ざり、いちばん磨きにくい時期になる
- 仕上げ磨きは小学校中学年くらいまでが目安。電動歯ブラシだけに頼らず、手用歯ブラシも使えるようにしておく
- いちばん多い事故は「のどを突く」。6歳以下で120件(2016年4月〜2021年3月末・消費者庁)。座らせて磨かせることが対策の基本
結論:年齢の下限を定めた公的な基準はない
「何歳から」を探すと、いろいろな年齢が出てきます。ただし、厚生労働省にも日本歯科医師会にも、電動歯ブラシを使ってよい年齢の下限を示した資料はありません。学会として唯一まとまった言及があるのが、日本小児歯科学会の公式Q&Aです。「小学生低学年」のページに「電動歯ブラシは使用してもいいですか?」という項目があり、次のように答えています。
最近では電動歯ブラシも沢山種類が販売されていてかなり良くなってきていますので、使用してもかまいません。ただし、使い方や歯ブラシの回転方法によっては、歯肉が傷ついたり、下がったり(退縮)します。また、歯並びや歯の形によっては細かいところまで電動ブラシの毛先が届きにくいこともあります。かかりつけの歯科医院にて相談し十分な指導を受けてから使用した方がいいでしょう。また歯ブラシの大きさや重さも色々あり、子ども自身では充分使い切れないこともあります。保護者の方が仕上げ磨きで使用するにしても、電動歯ブラシだけに頼らず、手用歯ブラシも使えるようにしましょう。(日本小児歯科学会「小学生低学年」Q&A)
この回答が「小学生低学年」のページに置かれていること自体は1つの手がかりですが、学会が推奨年齢として示しているわけではありません。読み取るべきは年齢ではなく、条件のほうです。
学会が挙げる3つの注意点
Q&Aの回答は、実質的に3つのリスクを挙げています。順に見ていきます。
これは大人にも起きることですが、子どもは力加減の調整がまだ苦手です。電動歯ブラシは自分で動かす必要がないぶん、「当てて待つ」ができないと押し付けになります。歯ぐきが下がる仕組みは歯茎が下がるのはなぜ?原因と、電動歯ブラシの当て方・力加減で詳しく説明しています。
生えかけの永久歯は、隣の歯より背が低く、まわりの歯ぐきもかぶさっています。ヘッドが平らに当たると、その低い部分だけ毛先が浮きます。歯並びが整っていない時期ほど、この取りこぼしが起きやすくなります。
学会は「歯ブラシの大きさや重さも色々あり、子ども自身では充分使い切れないこともあります」と書いています。振動する本体を口の中で狙った場所に止め続けるのは、見た目より難しい動作です。
3つとも「電動歯ブラシが危ない」という話ではなく、その子が扱えるかどうかで決まるという指摘です。だからこそ学会は、かかりつけの歯科医院で相談し指導を受けてから使うことを勧めています。
目安は年齢より「歯の生えかわり」
年齢で線が引けないなら、何を見ればよいのか。実際的なのは口の中の状態です。日本歯科医師会の説明によると、乳歯は生後6か月ごろから生え始め、2歳までに20本が生えそろいます。最初の永久歯が出てくるのは6歳前後で、そこから12歳ごろまでが乳歯と永久歯の入れ替わる時期(混合歯列期)にあたります。永久歯は親知らずを含めて32本です。
| 時期 | 口の中の状態 | 電動歯ブラシの考え方 |
|---|---|---|
| 生後6か月〜2歳 | 乳歯が生えそろっていく | まず歯ブラシに慣れることが先。保護者が磨く時期で、電動を急ぐ理由はない |
| 3〜5歳 | 乳歯20本がそろう | 本人磨き+保護者の仕上げ磨きが基本。使うなら保護者が持つところから |
| 6〜12歳 (混合歯列期) |
6歳臼歯が生え、前歯から順に生えかわる | いちばん磨きにくい時期。背の低い生えかけの歯に毛先が届いているかを保護者が確認する |
| 12歳ごろ〜 | 永久歯がほぼそろう | 大人と同じ使い方に近づく。力加減と時間の管理を本人ができるか |
とくに注意したいのが6歳臼歯です。日本小児歯科学会が2019年に小児歯科学雑誌へ発表した調査(対象30,825人)によると、下顎の第一大臼歯の萌出期間は男子で5歳11か月から8歳7か月と、3年近い幅があります。同じ学年でも、口の中の状態はまったく違うということです。年齢で判断できない理由がここにあります。
仕上げ磨きはいつまで続けるか
電動歯ブラシを子どもに持たせても、仕上げ磨きが不要になるわけではありません。終了時期の目安として公的に年齢を示しているのは、神奈川県歯科医師会の記載です。
少なくとも6歳頃に生えてくる奥歯(6歳臼歯または第一大臼歯)が生えそろう小学校中学年くらいまでは、仕上げみがきを行うようすすめられています(神奈川県歯科医師会「お子さんの仕上げみがきのコツ」2022年8月31日更新)
厚生労働省の「幼児期における歯科保健指導の手引き」も、保護者の関与を年齢で段階的に整理しています。1歳児は「保護者による歯口清掃を必要としている」、2歳児は「身体の清掃の一部として歯口清掃の習慣を定着させる大切な時期」、3歳児は「みがき残しが多く、歯をみがいた後に保護者が点検し不十分なところについて再び歯口清掃をしてやる必要がある」。年齢が上がるにつれて、保護者の役割が「磨く」から「点検する」へ移っていく設計です。
ここで効いてくるのが、学会Q&Aの最後の一文です。「保護者の方が仕上げ磨きで使用するにしても、電動歯ブラシだけに頼らず、手用歯ブラシも使えるようにしましょう」。仕上げ磨きで細かい場所を狙うときは、手で角度を作れる歯ブラシのほうが有利な場面があります。仕上げ磨きそのもののやり方は子どもの仕上げ磨きはいつまで?正しいやり方と嫌がるときのコツにまとめています。
いちばん多い事故は「のどを突く」
子どもの歯磨きで、実際に件数として報告されている事故は、電動か手用かとは別のところにあります。歯ブラシをくわえたまま転倒して、のどや口の中を傷つける事故です。
| 公表元・年 | 集計期間 | 件数 |
|---|---|---|
| 国民生活センター・消費者庁(2017年2月15日) | 2010年12月〜2016年12月末 | 6歳以下 139件(うち3歳以下 124件)。1歳児64件・2歳児42件・3歳児17件 |
| 消費者庁(2021年6月2日) | 2016年4月〜2021年3月末 | 6歳以下 120件(うち3歳以下 104件) |
| 消費者庁 子ども安全メール(2023年6月8日) | 2022年までの5年間・東京消防庁管内 | 5歳以下 182人が救急搬送 |
受傷の要因として最も多いのは「歯ブラシをくわえたまま歩くなどして転倒したこと」です。入院に至った例や、全身麻酔での処置が必要になった例も報告されています。示されている対策は次の4つです。
- 保護者がそばで見守り、床に座らせて歯磨きをさせる
- 子ども用歯ブラシは、のど突き防止対策を施したものを選ぶ
- 仕上げ磨き用の歯ブラシは、のど突きの危険性が高いため子どもには持たせず、手の届かない場所に置く
- 箸やフォークなど、のど突きの危険がある日用品も口に入れたまま歩かせない
電動歯ブラシに限定した事故統計は、消費者庁・国民生活センター・製品評価技術基盤機構のいずれにも見当たりませんでした。ただし本体に重さがあるぶん、くわえたまま動くリスクは手用と同じかそれ以上に考えておくのが安全です。座らせて磨かせる、歩かせないという原則は、道具を問わず共通です。
歯磨き粉は年齢で量と濃度が変わる
電動歯ブラシと合わせて確認しておきたいのが歯磨き粉です。こちらには明確な年齢別の推奨があります。日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4学会が2023年1月1日に合同で示した推奨です。
| 年齢 | 使用量 | フッ化物濃度 |
|---|---|---|
| 歯が生えてから2歳 | 米粒程度(1〜2mm程度) | 900〜1000ppmF |
| 3〜5歳 | グリーンピース程度(5mm程度) | 900〜1000ppmF |
| 6歳〜成人・高齢者 | 歯ブラシ全体(1.5〜2cm程度) | 1400〜1500ppmF |
いずれも「就寝前を含めて1日2回」が前提です。歯みがきの後は歯磨剤を軽くはき出し、うがいをする場合は少量の水で1回のみとされています。2歳までは、歯みがきの後にティッシュなどで軽く拭き取る方法も示されています。電動歯ブラシは振動で歯磨剤が飛び散りやすいので、量を守るという意味でもこの目安は役に立ちます。
電動歯ブラシの基本は、子どもでも変わらない
最後に、年齢を問わず共通する2点を確認します。厚生労働省のe-ヘルスネットは、電動歯ブラシについて「3分以内の使用にとどめることが推奨されています」とし、さらに次のように書いています。
歯ブラシに比べて歯面の研磨効果は優れていますが、歯間部や隣接面の清掃効果は低いので、プラークコントロールを高めるには、歯間ブラシやデンタルフロスの併用が必要になります(厚生労働省 e-ヘルスネット「歯みがきを助けるもの」2021年1月12日最終更新)
つまり電動歯ブラシは歯と歯の間が苦手で、これは子どもでも同じです。生えかわりの時期はすき間の形も日々変わるので、フロスを併用する価値は大きくなります。使い方はデンタルフロスの正しい使い方。電動歯ブラシと併用したい理由と選び方を参考にしてください。
もう1つは力加減です。神奈川県歯科医師会は「歯ブラシは軽い力で小刻みに動かし、1本1本ていねいにみがいていきましょう」としています。なお、適正なブラッシング圧を何グラムと数値で示した公的・学会の資料は確認できませんでした。よく見かける具体的な数値には公的な裏づけがないため、数字ではなく「毛先が広がらない程度」で覚えるのが確実です。当て方の基本は電動歯ブラシの正しい使い方。当て方・動かし方・時間を歯科目線で解説にまとめています。
電動歯ブラシに「何歳から」という公的な年齢基準はありません。日本小児歯科学会は使用可としたうえで、歯肉を傷つけないこと、歯並びによって毛先が届かない場所があること、子ども自身が扱いきれない場合があることを挙げ、歯科医院で指導を受けてから使うよう勧めています。判断の目安は年齢ではなく歯の生えかわりで、6歳から12歳ごろの混合歯列期がいちばん磨きにくい時期です。仕上げ磨きは小学校中学年くらいまで続け、電動歯ブラシだけに頼らず手用歯ブラシも使えるようにしておく。そして道具を問わず、座らせて磨かせることが最も大事な安全対策です。
よくある質問
電動歯ブラシは何歳から使えますか?
年齢の下限を定めた公的な基準はありません。日本小児歯科学会は公式Q&Aの小学生低学年のページで「使用してもかまいません」としたうえで、使い方によっては歯肉が傷ついたり下がったりすること、歯並びや歯の形によって毛先が届きにくいことがあることを挙げ、かかりつけの歯科医院で相談し十分な指導を受けてから使用するよう勧めています。年齢で線を引くより、その子の歯並びと本人が扱えるかどうかで判断するのが実際的です。
子どもの仕上げ磨きは何歳まで続けますか?
神奈川県歯科医師会は「少なくとも6歳頃に生えてくる奥歯(6歳臼歯または第一大臼歯)が生えそろう小学校中学年くらいまでは、仕上げみがきを行うようすすめられています」としています。日本小児歯科学会は、保護者が仕上げ磨きで電動歯ブラシを使う場合も、電動歯ブラシだけに頼らず手用歯ブラシも使えるようにすることを勧めています。
子どもが歯磨き中に歯ブラシでけがをする事故はどのくらい起きていますか?
消費者庁は2016年4月から2021年3月末までに6歳以下の事故情報120件(うち3歳以下104件)を把握したとして注意喚起しています。それ以前の2010年12月から2016年12月末の集計では6歳以下139件で、1歳児64件が最多でした。受傷の要因として最も多いのは歯ブラシをくわえたまま歩くなどして転倒することです。保護者がそばで見守り、床に座らせて歯磨きをさせることが対策として示されています。
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